「骨」展とトークイベント感想

レポートの転載なのです。骨。

1.トークイベント感想

takram design engineering のトークイベントに参加した。今回出展したPhasmaの話やそもそもtakram とは何かという話もされていたのだが、ミラノ・サローネに展示したというOvertureという作品についての話が最も興味深いものであった。
今の照明の市場においてLED照明の流れがあり、特にTOSHIBAはLED照明をこれから売り出して行くためにLEDを使った照明の展示をすることになったそうなのだが、takramと東芝が作ったのは機能的には全く違うものの、外見的には一見白熱電球かのようなデザインの照明であった。これは、TOSHIBAが日本で初めて白熱電球を作ったメーカーであることも関係しており、外装の吹きガラスも日本で初めての白熱電球を製造した工房が担当している。しかしOvertureが白熱電球の形になっているのはそれらの理由よりも、白熱電球が市場から消え去ろうとしている今、それとほぼ同時のタイミングで出て来たLEDが、白熱電球が持つ文化的な面を積極的に残して行く、取り入れるという発想から来ているのだそうだ。
Overtureは、ひとが近づくと明かりが明滅し、触ると鼓動を感じるという機能を持った照明オブジェである。その機能もまた白熱電球の発想から来ているようだ。私たちが白熱電球に感じる懐かしさ、暖かみなどは、白熱電球150年の歴史の中で生まれた文化の中での概念であり、それが白熱電球の生産中止とともに消え去るのはもったいないと思われたそうだ。
私は、この白熱電球の文化的な側面を見てデザインするというところにtakramのデザインエンジニアリングの思想があると思う。そのモノが持つ文化的な面を参照し、それを外見のみならず、機能の面にまで実装するということが、デザインでも工学でもなくデザインエンジニアリングなのだろう。

2.展示の感想

「骨」というのは、死の象徴というマイナスの面もありながら、「骨のあるやつ」という褒め言葉があるように、プラスの意味でも使われることがある不思議な言葉だ。プラスでもマイナスでも「生命」という概念に非常に近い。この展覧会を通じて感じたのは、骨というものはなにか生命を感じさせるもの、ということだ。
今回の「骨」展で私が好きな作品を二つあげる、この二つともがどちらも生命ではないものなのだが、生命を感じるものであった。工業製品の骨格ということで、工業製品のX線写真を撮ったニック・ヴィーシーの作品と、山中俊治研究室のFlagellaである。
山中研究室の、Flagellaが今回展示してあった作品で一番の驚きを受けたものであった。可動部が二つしかない堅い素材で出来たロボットアームが、動き方とそれそのものの質感だけで、伸ばす、縮める、ひねるなどのそれには出来ない動きをあたかも実現しているかのように見えた。説明を見るまでなぜ骨なのか分からないほど柔らかな動きをしており、説明を見てその構造を理解すると同時に感嘆した。
ニック・ヴィーシーの作品の工業製品のX線写真を見ると、人体を見るときとほとんど変わらないことに気付く。そもそもが内部の外側のなにかに隠されて見えないものを見るX線写真なので、どんな物を撮っても似たような印象を受けるのだが、外装がうっすらと写り中身の構造がくっきりと見えるのは人間も工業製品も共通のようだということが分かる。被写体となった工業製品の大きさと、内骨格を持つ動物が大型化し、外骨格である昆虫が小型化したことから考えると、これは自然なことだ。大型化すれば大型化するほど、内骨格の重要性は増し、X線写真に映る航空機の姿はとても美しかった。