誰得読書会『NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション』参加レポート

SF読んでる一般人としては、最も沢山読んでかつ感想を書いてる思われる冬木さんが主催の誰得読書会。。前回の読書会とかの開催告知とか報告を見て参加したいなぁと思いながらただひたすらファボッてたらある日こんなリプライが届いたわけです。

というわけで、今回の「NOVA+ バベル」の読書会は読むのが間に合った + ご近所だったので参加出来ました!詳細は既に冬木さんのブログに書いてあります。相変わらず書くの早い……。
誰得読書会『NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション』開催レポート - 基本読書

課題本『NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション』

NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)
宮部 みゆき 月村 了衛 藤井 太洋 宮内 悠介 野崎 まど 酉島 伝法 長谷 敏司 円城 塔
河出書房新社
売り上げランキング: 2,287

全体の感想

それぞれの短編を出てくる順に、参加者ひとりひとりが順番に点数と感想を述べていくスタイルでした。8人いるとさすがに前の人に言われた!って事例も多いとはいえ、そんなに丸かぶりもなく結構いい感じに進んでいきました。
ここで僕が面白かったのはまさに前の人に言われた!って事例で、「言われた瞬間に同意の言葉を述べる」時もあれば「自分の番で先ほどの〇〇さんと同じで〜と言及する」時もあるんですが、一番多かったのはそこで再考して、この人の言っていることと僕が感じたことの違う部分はどこかな〜って考えて、そこを自分の番で言うってことでした。意見の筋自体は変わらないんですが、より詳細に感じたことを捉え直すことになって、個人的には実に読書会らしい体験でとても良かったです。

参加者及び僕のスタンス

参加者の読み方が全然違って冬木さんのブログ読者の多様性が伺えて、人気ブログだ……みたいなことを思ったりしました笑 ハードSF性、人間が描けて欲しい、読みやすさなどなど、重きを置く場所が違っておりました。とはいえ、読み方が違うのは想像出来たんですが、 色んな読み方を持っていて幅広く評価出来る人もいて、結構びっくりしました。
というのも、僕はゴリゴリのハードSF押し*1で、ほぼそこでしか作品を評価していなかったので後半になるとみなさん僕の評価が事前に予想ついてる感じが出てきて、予想を裏切る点数を言う時にちょっと申し訳ない気持ちになったりしました笑 サンプリング数がまだ足りないとはいえ、割と狭い切り口でSFを評価している方なのかな〜と分かって面白かったです。
またもう一点僕の特殊性をあげるなら、エンジニアをしているゆえのリアリティに対する厳しさがありました。自分で書いてみると、恥ずかしい文言ですが、僕からするとみなさんテクノロジーの詳細についてそんなに気にしないんだなという印象でした。
自分のスタンスがどの程度普遍かを探るというのも読書会の面白さだったのかも。

短編の点数と感想

作品 点数
宮部みゆき「戦闘員」 5
月村了衛「機龍警察 化生」 3
藤井太洋「ノー・パラドクス」 9
宮内悠介「スペース珊瑚礁 5
野崎まど「第五の地平」 8
酉島伝法「奏で手のヌフレツン」 4
長谷敏司「バベル」 6
円城塔「Φ(ファイ)」 9

点数は記憶の限りでは上記の感じです。たぶんどこか間違えてる*2。ということで、印象に残った短編の感想を書きつけときます。
「ノー・パラドクス」はタイムトラベルもののハードSF。僕がきちんとそのハード性を検証していないから9点で、さーっと読む分には無駄なものも少なく、SFネタとその謎も面白いし、最後に綺麗にオチがついて終わっていて、この本の中で一番面白いと思ったので最高点数でした。いろんなネタ突っ込んでるし長編にしたほうがいいんじゃないか?という意見が出てたんですが、作中の描写でも充分足りているように僕は思えました。むしろ沢山ネタ詰め込んで短編で綺麗に終わらせた力量が凄いなと。
「スペース珊瑚礁」はこれ目当てに買ったのにクオリティがイマイチでした。スペース金融道シリーズはいままで凄く切れ味のよいバカハードSFだったのですが、今回は切れ味も悪いしハードSF的なところも薄いし残ったのはバカSF部分だけな印象で、読書会でも僕どこか読み間違えましたかね?と聞いたんですが、特にそういうことはなかったみたいです。「スペース地獄篇」はオールタイム・ベストにいれたぐらい面白いので、今回の読んであんまり……ってなったらどうぞこちらをお読み下さい。読書会のとき「スペース蜃気楼」って言ったのですが、正確には「スペース地獄篇」でした。
2014オールタイム・ベストSF…… - ゆうれいパジャマ
「第五の地平」はチンギス・ハーンが宇宙を征服し、他次元に旅立つバカSFなんですが、異なる次元の説明をチンギス・ハーンの部下兼友人がタブレットパワポを用いてしていて、そのパワポの図が載っていて、とんでもなく分かりやすいハードSFになっておりました。読んだ瞬間、白熱光もこういう図があればな〜って思いました。イーガンこそ図を多様すべき作家……というのは置いといて、史実のモンゴル帝国の話をしていたと思ったらいつの間にか宇宙とか他次元の話になっているリーダビリティの高さも相まってこれ大変面白いです。8点にしたのは、SFネタとしての新規性が欠けるかなというところです。
「奏で手のヌフレツン」は挿絵描くなら普通に漫画描いたら良いのでは?と思いました。弐瓶勉だとそれこそ「シドニアの騎士」「バイオメガ」「ABARA」とかでウゴウゴウニョウニョしたもの描いてるし、超メジャーなところでは宮崎駿もやっているから、文学分野ではマイナーでも文化全体で見れば結構メジャーな感覚なのかな〜と。マイナーだからこそ価値があるかもしれませんが、単純に表現したいものを実現する手法として文学って価値あるのかなという疑問です。

表題作の「バベル」は評価高いだろうという視線を受けながら、低めの評価になった作品です。最も重要なSFネタのシステムによるファッションの流行シミュレーション部分が、シミュレーションの万能性に頼りすぎてる感じで、うーん、と。シミュレーションの精度をあげるために各地のモスクの監視カメラ映像を使用し飛躍的に上がったということなんですが、それだけで押し切れるかな〜って。たぶんもう一つ、例えば監視カメラ映像から服をどう画像処理的に認識し、パターンとするからへんがあるか、それはダメな手法で〜って言ってから、人型に切り抜いた画像と過去のファッションの流行を入力することで、服の詳細に立ち入らずに服の流行を出力出来るみたいな話だったら納得ということですね。僕はすべてのリアリティに気を配ってくれというわけではなく、作品の中でのリアリティのレベルを統一して欲しいと思っているので、他の部分での深い説明はするけど、同じように重要に見えてしまう部分の説明を省かれると困るってことです。
「Φ(ファイ)」は行ごとに一文字ずつ減っていく世界の語り手が、その宇宙の仕組みを観測結果ら推測して語りながら、予想される消失からのほら話のような脱出方法を語るというお話。文字上の宇宙という構築の仕方は円城塔だなぁと。また脱出方法がこれまたバナッハ・タルスキーのパラドックスのような人を喰ったお話で、いや、そうだけどもって、語り手があの手この手で試行錯誤していく様を苦笑いしながら読み進めていくのが本当に面白かったです。

本の交換会

このあいだ東京でね
このあいだ東京でね
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青木 淳悟
新潮社
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持っていく本を忘れた結果、2冊持ってきた人がいたお陰でもらうだけのフリーライダーになりました。持っていくのは青木淳悟の『このあいだ東京でね』でした。人間が全く描けてなくただひたすら場面の描写が続くという純文学作品なのでSFの人で円城塔が好きな人あたりにオススメしたいなと思っておりました。わりとSF好きに限らずみなさまに読んで欲しい一冊です。

まとめ

冬木さん、開催してくれてありがとうございます〜!
短篇集って一個一個あらすじを書く必要があって死にかけますね……。さらっと書くつもりがこんなことに。ではでは。

追記


点数ですが冬木さんいわく合ってたそうです。
あと「奏で手のヌフレツン」の「マイナーだからこそ価値があるかもしれません」の部分なのですが、この作品を読書会で高く評価している人がこんな表現をしているのはこの人だけ、と希少性を強調していらっしゃっており、議論もそのあたりを中心にされたので、マイナーさに価値があるって評価されてるのかと思い、こう書きました。僕がそういう印象を受けたという話なので、実際にマイナーなところに価値があるとハッキリ言ってる人はいなかったかもしれません。この記事がRTされた結果作者さんのTwitterにも届いてしまったので、一応書いておきます。

*1:自分が相対的にかなり極北のスタンスなのか……って驚きました。というのも今まで大人数でSFを話したことなかったので

*2:写真を取っとけばいいのにね