悪霊の午後

この頃好きになって来た、遠藤周作の作品だけど、これ読んでむっちゃ好きになった。

この悪霊の午後、悪女というか、悪魔が取り憑いているという女性と、その女性に振り回される男性達の話。


単純な話に見えるものの、この女性がいわゆる悪女とは違って、一見おとしやかなんだけど、実はその人でも知らないその人の欲望を吐き出させると言う厄介な悪魔。


この女性に関係する男性達は、自殺したり、人を殺したり、女装するようになったりするんだけど、この女性がきっかけなものの、実は自分達の欲望の結果なので、悪いのが誰なのかが分からなくなってくる。


それぞれの人間の持っている悪とかどす黒い欲望が、表出していく様を読むと、救われないなあと、日常にこんな悪が存在しているのかもしれないと思えてくるんよ。


主人公として、作家が出てくるんだけど、この人はあとがきによると、どうやら遠藤周作自身みたい。この作家もまた、彼女のせいで、自殺しそうに追い込まれるものの、助かるんだけど、その過程がいかにも遠藤周作ぽい。


この小説、日本的な私小説と。人間の業を扱うというような西洋的な小説と、ミステリ的なエンタテイメントをあわせたような感じで、決して重すぎなくて楽しい。私小説の部分を除けば、宮部みゆきの「名もなき毒」に似ているなと感じたよ。


世の中に偏在し、日常に潜んでいる悪、の存在が見えてくるような。