ミシェル

友達に何色が好きと聞かれて茶色と答えたとき、彼女を思い出した。


アメリカに留学して、日本人は誰もいなくて、アジア人もほとんどいない学校の数少ないアジア系の一人だった彼女は、寮と校舎を繋ぐ道で初めて会う僕に笑いかけた。彼女は綺麗な長い髪を持つ、学内でも一二を争う美女だった。僕らは友達になった。


ある日、僕は彼女の部屋に遊びに行って、彼女のベッドで彼女の隣りに座って、みんなでドリンクとポテトとミートボールの出て来るアメリカのアニメを見ていた。彼女は茶色のスラックスを履いていた僕を見て「T*1、あなたは茶色が似合っているね」と言った。


それが僕と彼女の最後の会話。その後の僕は鬱になり、入院して、日本に帰った。残ったのは茶色が好きな僕だけ。

*1:アメリカでの僕の愛称