24人のビリー・ミリガン

24人のビリー・ミリガン

「24人のビリー・ミリガンての読んだんよ」
「あー、なんか見たことある。昔流行ったやつでしょ」
「そうそう、ゲオで100円で売ってたから買って来たの。でね、多重人格のビリー・ミリガンて人の話で…」
「あー24の人格があるってこと?」
「あたりー。これ買ったけど放っておいたんだけどね。最近作者のダニエル・キイスと宇多田の対談を…」
「また宇多田ですか」
「悪い?…まぁとにかく読んだんだけど、結構面白くてね」
「ふーん」
「ノンフィクションなんだけどさ、フィクションとしか思えないねん」
「構成がうまいてのもあるんだけど、真実は小説より奇なりとはこのことかってかんじなんよ」
「ほー。そんなに波瀾万丈なんだ」
「うん、これが実在なんだって読みながらずーっと驚いてたもん。あとね、ビリーがどんどん悪い方向に進んで行くと言うか、追いやられて行くんだけど、フィクションだったら一発逆転を期待するじゃない?でも無いんだよね、これには。ほとんど悪夢のような転落ぶりと言うか」
「……マジですか。体験したくないノンフィクションだな」
「まぁ、僕は多重人格じゃないから大丈夫だけど」
「俺ら、同じ人間の人格ですけど」
「あ……。」
「と、とにかくそういうお話でみんなも読むといいよ」
「あんた、どういう話か具体的なこと何一つ言って無いやん」
「ちょ、それは言わないのがお約束なのに」

香山リカのあとがき

「ところで、この本のあとがきは香山リカが書いてるのね」
「あー精神科医の時々批判喰らってるおばさん?」
「おまえ…。で、この人が言うことには、『私さがし』の始まりはビリーがきっかけだというのね」
「はぁ」
「まぁ聞いてよ。彼女が言うにはアメリカではセンセーショナルに受け入れられたのよ。ある種珍しいものを見るように。ワイドショーの向こう側みたいな感じにね」
「一番想定されうる受け入れられかただよね」
「うん、でも日本では10年後に翻訳して出されたんだけど、ビリーのような多重人格ってなんなんだろう?という疑問を持って読まれたと言うのよ、この人は」
「と言うと?」
「つまり、人格ってのはなにか?多重の人格を持つビリーとしょっちゅう場所によって顔を変えている私の違いはなにか?じゃあ『本当の私』ってなんだろう?って自分の内面の問題として捉えたと」
「あー、『本当の私』ね。なるほど」
「ちょっと疑いを持ってもいいとは思うけど結構説得力あるでしょ」
「確かに」
香山リカが『私さがし』をしている人に聞いたら、結構な人数がきっかけはビリー・ミリガンだって答えたらしいねん」
「ふむ」
「で、香山リカはもう一つの問題に言及しているんよ」
「それはなに?」
「多重人格が"社会背景や時代の影響を色濃く受ける心因性疾患"であるってこと」
「??」
「えーとね、分裂病とか躁鬱病て言うのは、"時代にあまり関係ない内因性精神疾患"なのよ。で、"心因性疾患"の方はえーと、例えて言うとリストカットとか援交とかかな。ちょっと違うけどね」
「つまり流行廃りのあるメンヘルみたいなの?」
「そうそう、そういうこと。拒食症、過食症なんかもそうだって」
「あー。つまりそういうものがクローズアップされることで、今までそうだった人や、そうじゃないのかと思う人、さらにはそう診断する医者が増えることにより、結果として患者数が増加すると言うのね」
「そういうこと、ドンピシャ。」
「なるほどねー。で、何がいいたいの?」
「こういった精神疾患でさえ社会の雰囲気みたいなもので流行ったり廃れたりするじゃん」
「まぁそういうことになるね」
「つまりさ、テレビとか、新聞雑誌なんかのメディアがこういうの流行ってるよーというのを色々な切り口で流したらさ、流行るわけじゃん。そういう社会の雰囲気というのはまさにメディアが作るから」
「よく言われるよね、流行は電通が作る」
「流行は作られる。にしときなさい。それで、一応今までは、人々の意識・欲望なんかをメディアが拾い上げ、それをある程度加工して流すことにより何かが流行ったりするわけじゃん」
「うん」
「つまりさ、流行が作られる過程には必ずメディアが加わるわけよ」
「そうね」
「メディアがこれは有害だと思うものは無視されるか、悪意を持って流されるわけだ」
「まさしく」
「さてここでうちらお得意のネットが登場するよ!」
「おお、ついに来たか(ここまで読んでるあなたはすごい)」
「そのかっこやめろ。ネットの役目って色々あるけど、メディアの役目もになってるよね。というかコミュニティがメディアに直結していると言えるよね」
「そうね、ブログはコミュニケーションの場でもあるけど同時にメディアでもあるね」
「そうなんよ。その結果流行が作られる過程で既存のメディアの手が加わらなくなったのよね、ネット上は」
「お、なんか楽しげだけど一般的で凡百な結論に辿り着きそうだよ!」
「……。 その一例として上げられるのが嫌韓だと思う」
「その心は?」
嫌韓が流行り出したのって、まさにネットがある程度の利用者を抱えてからじゃない。嫌韓てのはメディアにとっては禁止ワードと言っていいぐらいのものだったからね。」
「つまり、今までもなんとなく嫌韓の流れがあちこちにあり、通常の場合ならそれが流行化しておかしくなかったけど、メディアによる規制によりそれは妨げられてた。しかし、ネットが代わりに流行させた、と言いたいわけだ」
「読み切りましたね。あとはネットが意見が先鋭化しやすい場所であるというのも重要だよね。嫌いな他者のコメントは削除して見えなくすればいい世界だから」
「うむ、ところでインターネットてさ、なんで出来たか知ってる?」
「……は?えーと確か、大学間のネットワークじゃなかった?」
「違うよ、インターネットはね、アメリカが核攻撃を受けても維持出来る通信網を作る為に出来たんだよ」
「はぁ。   ……で?」
「まだ分かんないの?つまり、嫌韓が流行る今の世の中は核攻撃後の世の中なのよ」
「頭壊れた?」
「つまりだ。もし核攻撃があったら今のメディアは確実に全滅する。なぜならメディアは中央集権だからだ。日本の場合はキー局は全て東京にあるし、新聞の本社、いわゆる全国紙の本社は全て東京な上に、出版のほとんどは東京だよね」
「う、うん」
「それらが壊れたあとにインターネットは機能するはずだったわけだ、ホントは。東京がやられても、鹿児島と札幌で通信出来るように。実際はアメリカだけど」
「はぁ、じゃあつまり嫌韓が流行るのは核攻撃を受けてからだったのに、核攻撃を受けてない現状で流行ってるのが現在ってこと?」
「当たり☆だから僕らは核攻撃後の世界を生きてるってことなのさ」
「……!!」

24人のビリー・ミリガン〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

24人のビリー・ミリガン〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

24人のビリー・ミリガン〈下〉 (ダニエル・キイス文庫)

24人のビリー・ミリガン〈下〉 (ダニエル・キイス文庫)