SFを評価する時にその作者の属性は重要なのだろうか?

僕の答えは「重要ではないし評価にいれるべきではない」であるが、世の中的にはそうでもないようで、作者の属性(性別、年齢)も含めての評価をしているツイートが回ってくる。リツイートでそういう評価を知ったんだけど、誰のリツイートかと言うと早川書房の公式アカウントで、セールとか発売後とかに評価をツイートした人をリツイートするもんだから、それで知ったということ。
具体的な事例を上げると、ひとつは上田早夕里の「華竜の宮」で、「このような骨太の物語を女性が書いているのが素晴らしい!」っての。参考にAmazonの商品紹介を参照すると以下のような感じで、確かに「華竜の宮」は骨太とか重厚とかって言葉が似合う長編SFだと思う。

陸地の大半が水没した25世紀、人工都市に住む陸上民の国家連合と遺伝子改変で海に適応した海上民との確執の最中、この星は再度人類に過酷な試練を与える。黙示録的海洋SF巨篇!

ホットプルームの活性化による海底隆起で、多くの陸地が水没した25世紀。未曾有の危機と混乱を乗り越えた人類は、再び繁栄を謳歌していた。陸上民は残された土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は海洋域で〈魚舟〉と呼ばれる生物船を駆り生活する。
陸の国家連合と海上社会との確執が次第に深まる中、日本政府の外交官・青澄誠司は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長(オサ)・ツキソメと会談する。両者はお互いの立場を理解し合うが、政府官僚同士の諍いや各国家連合の思惑が、障壁となってふたりの前に立ち塞がる。
同じ頃、IERA〈国際環境研究連合〉はこの星が再度人類に与える過酷な試練の予兆を掴み、極秘計画を発案した――。
最新の地球惑星科学をベースに、地球と人類の運命を真正面から描く、黙示録的海洋SF巨篇。
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ただ、それを評価するのに「女性」が書いたことが重要?ってことで、なんかこのツイートをした人にとっては女性は骨太なSFを書かないみたいな前提があるんかなーってなるよね。その前提がある場合、女性が書いたことは素晴らしいになるから。それは女性差別というところまではいかないけど、随分と既存の社会のジェンダーに縛られた考えをお持ちですねって感じである。実際ハードSFの書き手に女性は確かに少ないもののこれ別にハードSF*1じゃなかったし。
もうひとつは吉上 亮の「パンツァークラウン フェイセズ」で、こっちは5月に出たばかり。「おじさん達が頑張ってARとかの話をSFに持ち込むけど、デジタルネイティブの彼が書く本作品の情報機器とそれへの関わり方の描写はさすが!」みたいなツイートがあった。吉上 亮は1989年生まれの24歳なのでこういうことを言われていたので、割と楽しみに本を買った。先ほど読みきったのでこの記事を書いてる。あらすじはこんな感じ。 

西暦2045年、大震災で崩壊した東京は、行動履歴解析(パーソナライズ)と
現実への情報層(レイヤー)付与を組み合わせた制御技術〈Un Face〉により、
完璧な安全(セキュリティ)を実現した層現都市イーヘヴンに生まれ変わっていた。
そこへ漆黒の強化外骨格を身にまとう青年・広江乗(ひろえじょう)が、民間保安企業の契約者として派遣される。
だが彼には、この故郷を離れざるを得なかった過去があった。
そんな乗を試すかのように、白き男ピーターがイーヘブンに降り立つ。3部作第1弾。
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で、読んでみたら全然そんな斬新さがあるわけではなく、最近のSF小説、アニメで描かれているAR以上のARとか情報技術が描かれているわけではなかった。最近の作品の情報技術の描かれ方は割と画一的になってしまっているなーと思ってたんだけど、この作品でもほぼおんなじ描かれかたをしていた。これなら今井哲也の「ぼくらのよあけ」というマンガの方が全然良かったなぁって感じである。プロジェクション型のモバイルコンピュータのある未来で、その設定とガジェットを作品内で効果的に使っていた。電脳コイルとか好きな人にはオススメの作品。今井哲也氏は1983年生まれでぼくらのよあけの連載は2011年からなので28歳くらいの時の作品。 
さて、ここで告白するとどちら(華竜の宮とパンツァークラウン)の作品もそんなに好きではない。だからこういうことを書いている面もある。あるのだが、やはり言いたいのは作者の属性で作品を評価するのは変じゃないかということ。特に今回あげた2つの作品は作者の属性が重要な役割を果たした*2とはとても思えないのでなおさらそう感じる。そしてSFってそういう属性を相対化する視点を提供する時があるので、SF読んでるなら作者の属性を評価に加えないんじゃないかっていう疑問もあって書いてみた。
僕の目撃したツイートは記憶から再生された要約なので、僕の読みと記憶が正しくない可能性はあります。

*1:ホットプルームとかの結構新し目の地学の単語は出てくるが、これは世界の終わりの前の人類を描いていてそんなにサイエンスが重要ではない

*2:自伝的作品とか、普通の作品でも作者の出自が重要な時があるのは理解している