ある自治体がワクチン接種早いのって手放しでは褒められないと思う

はてブやTwitterでよく、ワクチン接種が早い自治体が褒められているなぁと感じていた。個人的には、それは都道府県だろうが基礎自治体だろうが日本へのワクチン供給という限られたリソースを奪っているだけで、褒められたもんじゃないのでは?と思ったので、改めて調べてみた。

調べた結果、都道府県は大体人口比で平等と思われる。基礎自治体は、よく褒められている墨田区を調べたところ、人口比から計算されるワクチン供給数よりも15%多く供給されており、不平等じゃんと思いました。

ではまず、ワクチン供給の概略から。国内に供給されるワクチンのほとんどを占めるファイザーのワクチンは、国とワクチンメーカーの契約に基づき一定の量が2週間ごとに輸入され、それを都道府県単位でおおむね人口比になるように調整され供給されている。和歌山県がいくら早くてもストップをかけられているのは知事が言っている通りである。また、モデルナもそれなりの量が供給されるようになったが、現在ファイザーワクチンの分配にモデルナの供給量も含めて計算し概ね平等に分配するようになっている。

ということで具体的な事例、都道府県では東京都、基礎自治体では墨田区と世田谷区を例に見てみる。東京都のWebサイトで公表されているファイザーのワクチン配布箱数で比較する。これは医療従事者向けを含まないデータであり、8/30の週に配送される予定の箱数も含むデータをスプレッドシートにまとめて比較した。

東京都

東京都への累積の供給数(予定も含む)は12324箱で国全体の119483箱に対して10.3%。東京都の国全体に対する全年齢の人口比は11.2%なのでちょっと少ない。もしかしたら12歳以上人口比だとピタリかもしれないが、東京都には実はモデルナのワクチン(8/15時点で国全体の34.9%)が集中しており、8/30以降のワクチン供給でモデルナも含めた数を計算していると河野大臣が記者会見で言っていたのでそれだと思う。東京都モデルナ集中問題とも言えるこの問題については後述するので一旦脇に置く。

墨田区と世田谷区

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墨田区と世田谷区のワクチン箱数表

表を見れば一目瞭然で、墨田区は東京都内でその人口比よりも15%多いワクチン供給を受けていた。これは約33箱に相当し、33箱を接種回数にすると38610回分にもなる。比較として、墨田区と人口構成が似ている区として世田谷区を上げてみたのだが、世田谷区は人口比よりも5%少ない。人口比で貰える箱数よりも35箱少なく、ちょうど墨田区の多い分と同じくらいだ。

ワクチン供給グラフ

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墨田区と世田谷区、東京都のクールごとのワクチン供給グラフ

墨田区の7/19が突出しているのはワクチン在庫率が低い自治体への優先配分を受けたから。墨田区と世田谷区ではクール毎のワクチン供給の様相も違っている。世田谷区が乱高下をしているのに対し墨田区は抑えられており、ここは墨田区の行政が優れている点だ。まぁ接種率自体のほうが重要なので、これだけ取り上げないほうがいいとは思います。

結論

ワクチン接種が早い自治体への優先配分は結局実施された。その優先された配分は同一都道府県内の他自治体から奪ったものである。河野大臣はかつて国全体で1日120万回程度になるように調整しろと言っており、それを受けて真面目に調整した基礎自治体がかわいそうになる結果だ。

国全体へのワクチン供給というのは限られたもので、ある自治体を優先させることは、他の自治体を優先させないことに直結することは小学生でもわかる事実。その事実があるにも関わらず、ワクチン接種早いからたくさんもらいたいと主張する知事って倫理的におかしくない?と流行地域在住のものとして思っていた。和歌山県は高齢化率も高く、高齢者接種を先行させたんだから当然接種率が普通の都道府県よりも高くなるし、流行地域でワクチン打つほうがワクチン1回あたりの公衆衛生に対する価値は高いはずだし。

たくさんあるおまけ

東京都モデルナ集中問題

8/30時点での東京のモデルナ接種率は29.26%。千葉はモデルナの接種率が151.11%、100%を超えている!神奈川県は108.36%、埼玉県は147.72%である*1。これは企業・大学の集積地である東京都で打ったと推測するのが妥当だろう。接種券自体は住んでいる自治体が発行し、それを登録するのでこういうことが起きる。つまり、東京にモデルナは集中しているけれど、隣県の人も東京で打っており、純粋に人口比で考えるのも難しくなっているということである。

隣県分を入れても多すぎるかと言うとそうかもしれない。今後の検証待ちだ。

ソースはこれだが、更新されていくことに注意。

モデルナ9月末までに5000万回来るのか問題

東京都モデルナ集中問題のソースを見るとわかるのだが、8/30時点でモデルナの供給数は2449万回分。ちょうど1週間前と2週間前のデータを持っていて、それによると週225万回程度のペースで供給されている。9月末まであとちょうど4週間なので、このペースだと3350万回分で、予定の5000万回分からは1650万回分も足りない。輸入から供給までの時差を長めの2週間としても、ざっくり1000万回以上は足りない。異物混入問題もあるし加速するようにはとても思えない上に接種体制もそんな加速に耐えきれないと思うのだが……。

ワクチン供給の理想

ワクチン供給の問題点4点と事後諸葛亮。

  1. 当初国は接種スピードの早い自治体を優遇しようとしていたが、結局それをやめたから混乱した
  2. ファイザーの供給減とモデルナの供給遅れアナウンスが遅れた
  3. 墨田区は回避したがワクチン供給で鞭効果*2が起きている自治体が多そう
  4. エッセンシャルワーカー後回しになってない?

①最初から平等にしとけよである。また、国が各基礎自治体への配分の仕方を決めようとしていたが、結局失敗して都道府県に移譲したように見受けられる。都も恨み節として『※ 「ワクチン在庫率」の定義・計算方法については、厚生労働省は現時点(令和 3 年 7 月 2 日現在)では明らかにしていません。』って文をPDFに残していた。面白いね。最初から都道府県に任せたほうがスムーズだったのでは……。

②これの結果、接種予約の一時停止などの混乱が起きた。1回目接種数が伸びすぎたあとに供給が減ったので、その後の時期(7月下旬から8月上旬)は2回目接種に取られて1回目接種数がかなり少なくなっている。素早くアナウンスして平準化しておきたかったところだ。都議会選挙があったからしなかったという説を記録しておく。

③自治体の希望箱数に基づいて供給していたから起きた問題のように思える。各自治体の希望をあえて聞かず、人口比で一定の箱数を送るほうが混乱が生じなかったのではないか。準備が進まずに接種しきれない箱数があっても、各都道府県側で預かっておくというやり方出来たんじゃないか。

④国の仕事って自治体を競わせることじゃなくて、エッセンシャルワーカーを定義し優先順位を指示することだったと思うんですよね。

河野大臣へのヨイショ質問

河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和3年8月5日 - 内閣府

この記事のために河野大臣の記者会見をめちゃくちゃ追ったのだが、かなり気持ち悪いヨイショ質問が出てた。政権と政権側メディアはファイザーとの関係の良好さをアピールしたいっぽい。AERAに出た野党議員の質問にファイザー社員が怒ったていう謎記事とかこの辺から出てきたんだろうね。

ワクチン接種体制褒める点

  1. ワクチン担当大臣の設置
  2. 各自治体
  3. 国民のみなさん

①なんだかんだ言って、ワクチンに関する情報を追いやすい。7月、8月は河野大臣の記者会見の記録を見るだけでほぼ政府の動きはわかった。

②ベストプラクティスが報道されるから辛いところだけど、特別遅い自治体はない印象。世代別接種率は自治体の方針によるから比較しないほうが良いし、全体の接種率にしても高齢化率の影響を受ける。若者で予約できるできないの差が出てきたのは、予約上で年齢制限をどういれるかの考え方が自治体ごとにかなり大きい面があり、一概に良し悪しにはならんのであります。

③ワクチン拒否はかなり少なく、世界的には自由主義国家のなかでもかなり高い接種率になりそう。ずっとマスクつけて自粛生活している上にこれは偉すぎ。

*1:あと奈良県も100%を超えている

*2:供給箱数の乱高下として現れる