文章かけるようになりたい!って人にオススメするのは、基本的に木下是雄氏*1の書籍でした。有名なのは『理科系の作文技術』で、個人的にはより読みやすい『レポートの組み立て方』の方が好みなのでこれを勧めていたわけです。
しかし、これ大学生なら時間があっていいんですけど、忙しい社会人にはちとヘビーな内容なんですね。王道だけど、ちょっと階段のステップがデカい。昔のSFCの馬向けに作られた階段か?というくらい歩きにくい。だから注釈つけてオススメしていた。
どうにかならんかな〜と思って色々探ってたが、結局全然出てこなかった中でようやく見つけたのが、今回紹介する本、三森ゆりこ『ビジネスパーソンのための「言語技術」超入門-プレゼン・レポート・交渉の必勝法』*2であります。
三森氏の著作の評判は薄々聞いてたんです。でも自分は既に書けるからいっか〜と放置してたのを、フォロワーの薄井さんから文章褒められた*3ので、お返しのアドバイスしたいし、とようやく読めたのです。よかったね。
この本、書くための本だと思っていたのですが、書く前に必要とされる技術の本でした。言語技術とあるが、クリティカルシンキングに結構重きがおかれている。つまり、言語を使ったコミュニケーションとして「スピーチ、ライティング、対話」がある中で、それらの基盤になる要素が言語技術。そして、その中でさらにベースとなるのがクリティカルシンキングということ。そういう意味で、プレゼン・レポート・交渉の必勝法というタイトルは素晴らしい。上に積み上がった応用例に言及しているわけなので。
ということで、本書は文章術を学ぶための前の本としてオススメ。また、論理的に話したいとか、会議中に論点を整理できるようになりたいとか、プレゼンの構成うまくなりたいとか、そういう人にもオススメできる。
書く前の技術としてのクリティカルシンキング
クリティカルシンキングは直訳すると批判的思考法。批判はとにかく嫌悪される世の中なので、類似の書籍はだいたいロジカルシンキングと言い換えて逃げていますな。しかし、アイデアやコンセプト、文章、絵など、あらゆる知的創作物を洗練させるには批判というのものは欠かせないんですわ。そこを大事にしているという意味で現代の西洋は素晴らしい到達点にいる。で、まぁそういう理由で、文を書く前に批判を研ぎ澄ませないといけない。批判を研ぎ澄ませるには、まずちゃんと対象を分析しないといけない。という感じでクリティカルリーディングにたどり着くんですわね。
ここの部分は、自分は『知的複眼思考法』によって身につけたんですけど、まぁこれも平易に書かれているけどムズい!そんな中で当書『「言語技術」超入門』はピッタリ!テレビに対して6W1H聞いてみようか〜みたいなシンプルなやり方で磨いてこ!ってなってるので。まぁ欲を言えばもうちょい具体的なトレーニングの提案あっていいよね?と思ったので、章ごとに私が追加課題をいれてみるね。
中身に対してのコメントと追加課題
第1章 言語技術 グローバルスタンダードの言語教育
言語技術そのものの紹介なのでパス。
第2章 対話-質問をしながら対話を理解する
テレビに向かって問答ゲームをするの良さそうですよね。問答ゲームは以下4つのルールを守るやつ。
①結論を最初に言う
②主語をいれる
③理由をいれる
④結論の再提示をする
追加課題:お茶しにいく友達と問答ゲームをする
あなたがお茶とかファミレスとかに行く友達がいて、理解ある人だったらやってみよう。普段の対話にちょっとスパイスになって、楽しいお茶がさらに楽しくなるかもしれない……!なお、いきなり仕掛けると友情は壊れる可能性あり。
「何頼む?♪」
「私はレモンチキンソテーバジルガーリックソース!ダイエット中だから健康的な食事にしたくて、かつ外食している特別感も得たい。このメニューは低糖質だけど、レモンとバジルガーリックソースでちょっとスパイスの特別感もあるからそんな私にピッタリ!だからレモンチキンソテーバジルガーリックソース!」*4
追加課題:ツイッターをリライトして問答ゲームにする
自分のツイッターでやると喧嘩はないはずなので。
改変前「ニューヨークのグッゲンハイム美術館のような本屋できないかしら」
改変後「NYのグッゲンハイム美術館のような、らせんスロープで建物全体が構成されている本屋が出来たら、私は嬉しい。本屋は縦に長い建物では、カテゴリで分断されて偶然の出会いがしづらいし、横に単純に大きくして碁盤の目の通路に配置してもやはり、偶然の出会いは少ない。らせんスロープにすることであらゆるジャンルをまっすぐ歩くだけで一覧できる本屋があったら、思いも寄らない本との出会いが増えるだろう。だから、私はらせんスロープ状のフロアを持つ本屋を待ち望む」
第3章 説明‐わかりやすく情報を組み立てる‐
空間配列という考え方は、この本のワオポイントですよね。包括度の高い順に説明していくということなんだけど、まぁ詳しくは読んでください。
追加課題:カナダ国旗とソロモン諸島の国旗を空間配列で説明しなさい
追加課題:葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を空間配列で説明しなさい
第4章 記述の形式 パラグラフ‐報告・連絡・相談の基本の型を身につける‐
パラグラフライティングですけど、厳密にやるのがオススメで、絶対必要とされる要素だけで構築すると最初は簡単だと思います。
追加課題:穴埋め式パラグラフライティング:
ただひたすら絶対に外せない3つの要素、トピックセンテンス、サポーティングセンテンス、コンクルーティングセンテンスを作り、つなげるだけ。
テーマとしてはインターネット揉め事とか。例えば「Fラン大学を無くすのに賛成か?」とかね。この際のコツとしては、自分とは反対の立場で書くこと。自分側の意見だとうまく書こうという邪念が出てくるので、言語技術を磨く上では邪魔なんだ。
例で書いてみたけど、私は反対の立場なのでこうなる。トピックセンテンスを赤、サポーティングセンテンスを青、コンクルーティングセンテンスを緑で表現している。
Fラン大学は、社会のリソースの無駄であり無くすべきだ。
Fラン大学を出ても、必要なスキルは身につかず、多くが非正規雇用や無職になっている。高卒のほうが求人倍率が高い今、低スキルの大卒者を出す意味はない。無くして、高卒者を増やしたほうが社会全体の効率が良くなるはずだ。
以上のように、Fラン大学が供給する人材は社会とミスマッチになっており人的資源を無駄にしている。Fラン大学は無くすべきである。
私自身はこんな意見ではない(下記記事参照)し、「Fラン大学の卒業生が非正規雇用や無職になっている」なんて事実があるかどうかも確認してないので気をつけてね。10個くらいこれを書いていくと慣れると思います。
第5章 絵の分析‐「見る」から「観る、観察する」へ‐
見えてるのに見えてなかったと分かるようになる……かもしれない。
追加課題:ドラクロア「民衆を導く自由の女神」を分析せよ
第6章 テクストの分析‐文字情報から証拠を集める‐
追加課題:芥川龍之介「蜘蛛の糸」をテクスト分析せよ
「走れメロス」が例題なら、みんなへの課題は「蜘蛛の糸」あたりが良いよね。本章で紹介される観点すべてを網羅して書き出すことがポイントだ。また、上の図を作っても良いだろう。読書会呼びかけても良さげ。本記事読んでやりたいって方はお声掛けしてください。参加します。
他にはこちらで紹介されている作品も良さそう。
note.com
追加課題:自身が持つ思想の反対側にあたる社説を分析せよ
社説:読売新聞によるオピニオン・解説 : 読売新聞
連載「社説」一覧:朝日新聞デジタル
あなたがリベラルなら読売、保守なら朝日ということですな。対立する立場のほうが、クリティカルリーディング(批判的読解)はしやすいので。ライティングとちょうど逆なんですね。社説というのは無料で読めるし、リンク切れもあまり無く、文字数が限定されてて、すべてが良い素材ですね。あと大体パラグラフライティングの法則に従わないので、批判の取っ掛かりがあるというのも嬉しいポイント*5
第7章 漫画の分析‐高度な分析力で人生が変わる‐
漫画の分析、難しいんですよ。大人でも漫画自体読めないっていう人いるくらいだし。だからこそやると良さそうですな。
追加課題:攻殻機動隊の第一話を分析せよ
「攻殻機動隊」既刊・関連作品一覧|講談社コミックプラス本章で紹介されている漫画が、感情表現豊かな少女漫画なので、反対側の漫画を持ってきました。2次元平面を目いっぱいに情報を詰め込んでいる作風は読解にピッタリだね!
全話解説してくれる人いるから、疑似的にディスカッションしやすいと思う。ただし、分析する前に絶対読まないでください。
原作『攻殻機動隊』 全話解説|ヒト|note
終章 対話に戻る‐さらに多彩な活用方法へ‐
書き言葉のような整理された文章を喋る能力ってあるんだけど、著者の理想的には最後はそこを目指すということですね。書けるようになって空間配列に慣れてくると、頭の中を空間配列しながら対話できるようになるので。
追加課題:友達とホワイトボードを使いながらおしゃべりする - ふたたびファミレスへ
空間配列をしながら対話してみる。ホワイトボードで感想戦はある種のミームだが、今話している内容を書くのも面白く、訓練にもなる。ナプキンに書いてもよい。
おわりに
追加課題、実はすべてWebから無料でアクセスできる素材で組み立てたので褒めてほしい。さて、パラグラフライティング的にはイントロダクションで書かれたトピックセンテンスを言い換える文章がここには入るんだけど、あえて別視点を提供しよう。著者は、日本は言語技術教育が欧米と比較して劣っているとしている。そこは私も同意できる。ただ、一方で指導要領も変わり、国も国語という科目に置いて言語技術教育を目指している感有るのに、イマイチな状況があると思う。それは「和を以て貴しとなす」という文化だから、と思うのね。 つまり、文化の違いなので、そこに優劣はないから仕方ないじゃんという気持ちがある。
欧米の子どもたちは言語技術教育を日常に浴びせられる、としている。自分の感情を喋ったら、分析的な質問が飛んできてより詳しく説明しないといけないという。その状況がSNSという言葉が一瞬で切り取られ拡散する技術と組み合わさって言論的炎上が地球を毎日毎時周回している状態を生んでしまったのではないか?現代の分断する社会を生んだのは、まさにこの部分なのではないか?という疑いだ。つまり本エントリの途中で言及した欧米を発展させた素晴らしき批判精神が、行き過ぎてしまってむしろ地獄をもたらしているナウてこと。
もちろん、日本だって炎上しているのだが、どちらかというと日常のディスカッションという形式的対立でもやはりなにかダメージを受けるということがわかっていて、それを緩和しようという気持ちがある文化が日本じゃないか。国境なき医師団で、日本人は重宝されるという。まず緩衝材になろうとするから。対立をあるものとする欧米と、対立は緩和すべきと思う日本。それってやはり大きな違いで、どうしても批判という対立が入ってくる言語技術が馴染みにくいというのはあるのではないか。
自分自身、批判がベースとなっている言語技術から多大なメリットをもらいつつ、でも実際に対立が起きるといくら慣れても感情面でダメージが入ることもわかりつつやっている。日本文化が背景にあると、後者の技術というのはデフォルトで身につくものなのかもしれない。それは空気を読む文化として批判的に言及されることが多いが、むしろ良い意味で感情を無視しない文化という気がしている。