
『「"右翼"雑誌」の舞台裏』という新書をジャケ買いしたのだが、ゲッソリした。著者は右翼雑誌のHanadaで編集者をしていた人物。かつての自分の行動について、いちいち言い訳がましかった。
『WiLL』と『Hanada』という雑誌は、先行する『諸君!』等の右翼雑誌よりもカジュアルな構成で、ベテラン編集長のもと、素人の編集(著者もその一人)を集めて作っていたそうだ。時事対応を優先し、編集作業をギリギリまでするブラック編集体制によって人気を獲得してきた経緯があるそうで、そこを読んだ時点でゲンナリした。
また、たかじん氏が亡くなったときに起きた事象において、批判されていたさくら氏(たかじん氏妻)を擁護する編集長の姿勢を追求したときに、「キミ、女性だからってさくらさんに嫉妬してるんじゃないの?」というどう考えてもセクハラな発言をされているのだが、「さっぱり訳がわからなかった」とスルーしていてあちゃ〜……となった。それはセクハラって言うんですよ。左翼の言葉かもしれませんが。
さて、右翼雑誌のアイドルといえば安倍晋三氏なのだが、氏はアンシャン・レジームの脱却と言っているぐらいなにか主張があるかというよりは戦後の日本の主流派に対するアンチテーゼの人である。著者もまたそうで「朝日新聞の言ってることと逆のことを主張する」と自虐じみた感じで数度書いているのだが、まぁぴったりくる。面白いのは、安倍晋三氏は先行する『諸君!』でアンチテーゼ的保守としての安心できる場を得たということ。ゼロ年代に出来た『WiLL』もまたアンチテーゼ的保守で、日本の保守はアンチテーゼしかないんかい!!!となる。まぁだから、右翼雑誌の記事って反米的なものがないんでしょうね。あくまで主流派である朝日新聞に対しての対抗で、政府、米国にべったりな読売新聞を批判することはない。
実際の安倍氏が実施した政策はリベラル寄りで、でも人気だから批判しづらくて……という本物の保守の苦悩が少し書いてあったのはオモロだった。確かに、女性読者もいるんです!!!と言って雅子妃批判の記事を載せたら、そのとおりだ!雅子妃は怠けている!という女性による投書が大量にあったんですよ!て書いている読者層には、本来M字カーブ問題を消し去った安倍氏とは絶対合わないはず……。
左派によるあまりに過激なタイトルに対する批判にも、中身を読んで!とか、タイトルを過激にするのは売るために仕方ないよね?と記事タイトルそのものは書かずに回避しており、残念な姿勢である。
著者はオピニオン紙で素人編集をやっていくうちに、ジャーナリズムとリベラルアーツの要である批判的思考を身につけたようで、党派性のみで事実を否定しちゃいかんなぁと気づいて転向したフシがあり、それで『Hanada』の編集をやめてフリーになりこの本を書いたようだ。しかし転向したきっかけのひとつが「尖閣諸島の2島が米軍管理下にある」という事実を抑えずに特集を作っていたことに気づいたから、ということなのだが、そんな基本を抑えずにやってたんかい〜という呆れしか出てこなかった。
そもそも著者の右翼としての経歴はいわゆる「ネット右翼」世代(本人がそう書いている)なのだが、そこの経緯も本書全体で散りばめられている思想を見ても、この人は右翼としての根幹がない。ジャーナリストとして事実が大事、みたいなことは書くのに、右翼としては〇〇が大事*1、がない。
編集長も別に右翼であることを雑誌のアイデンティティにしていないと語っている。そして著者いわく雑誌の魅力は人物中心のエピソード重視。安倍氏がアイドルになったのは、エピソードトークがうまいから。これは結構怖い事実で、特になにかをしようとかなく、朝日新聞の言ってることにはノーみたいな感覚の人が、そういう感覚が受ける雑誌の読書層を岩盤支持層にして、クラスの人気者のように面白い話をして人気を得て、文書主義を破壊し、統治機構を破壊したわけですよ。
いやー、現実って怖いですねぇ……。でもそういう意味では抑えておく本かも……。
*1:例えば私の場合は左翼として基本的人権が大事と思っている
