コメダが47都道府県に進出(2019年)し名実ともに全国区になって5年くらい経った。コメダと言えばスガキヤと雌雄を成す東海地方ローカルチェーンだったのが、もはや置いてきぼりだ。味噌カツがキャズムを超えたように、コメダもフォッサマグナと関ヶ原という地峡≒キャズムを超えたわけだ。海峡もか。
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コメダの全国進出が加速したのは、グローバルな資本主義のお陰で、2回の投資ファンドへの売却(2008年アドバンテッジ パートナーズ、2013年MBKパートナーズ)が鍵になっている。スタバの日本進出が1996年、そして2000年に名古屋進出を果たしている。それとちょうど刺し違えるかのように、コメダは2003年に関東進出をこっそり果たしている。
90年代とゼロ年代の前半を名古屋で過ごした後に関東に来たのだが、当時、コメダは名古屋に詳しい人しか知らないローカルチェーンだった。露悪的に言うなら奇妙な風習(モーニング)が残るダサい土地のビジネス。立地も郊外、ログハウス風の外見と内装は時代遅れ、飲食物の見た目もオシャレとは言えない。しかし、その価値は進出直後から知れ渡っていて、タクシーに乗ったら運転手に「ここの喫茶店、朝だとトーストが無料でついてくるんですよ!」と言われるも、名古屋出身の友達と乗っていたので苦笑いすることに。
名古屋の喫茶店文化
こういう章の建て方をすると、モーニングがあって、リビングの代わりで、みたいな論調になるのだが、まぁそれはもういいと思うのでどういう風に名古屋で喫茶店が建っていて、どういう認知をされ、どう使われているか?を書こうと思う。
まず、立地からして関東と違う。2024年現在、東京の街もカフェ激戦地になったが、名古屋は昔から町中も当然カフェ激戦地であった。名古屋一の繁華街、栄にはオアシス21という謎の立体公園があるが、ここにはカフェ・ド・クリエ(名古屋に本社があるポッカがやっていた)、カフェヴィゴーレ(かつてはイタリアントマトだったような……?系列は同じ)、スタバと、3店舗セルフスタイルの喫茶店があり、この3つは老舗でゼロ年代前半からずっとあるはずだ。さらに倉式珈琲店(サンマルク系列)があとから開業している。ちなみにそのどれもがゼロ年代の頃*1から休日は満席の様相だった。店舗の間に無料のイスとテーブルも置かれていてマクドナルドもある上で、だ。
立地で最も関東と異なるのは、住宅街の喫茶店である。東京の世田谷を歩いていて名古屋人が驚くのは、住宅街に家しかないことである。正確に言うなら農家や酒屋は見かけるが喫茶店がない。名古屋では、郊外の住宅地にも喫茶店がある。住宅地の中の大通りには広い区画に1階に喫茶店を備えたデカい家があり、駐車場は数台で、そのうち2台は店主家族の車が止まっている。全人類がビルを持って1階でカフェを開きて〜と実は思っているらしいが、名古屋人は成功すると*2このような喫茶店付きの家を立てて夢を叶える*3。店主こだわりの器*4がカウンターの後ろに並んでいて、頼めばそれを使わせてくれる。そういう喫茶店が自分の家から徒歩圏内で数店舗あり、そのうちの半分は営業していない。店主の趣味だからだ。そのため、名古屋の喫茶店は営業中であることを示す必要があり、パトランプを利用している*5。
愛知あるある〜喫茶店の看板のヒミツ〜 | KOICHIRO COFFEEのカフェ日記
徒歩圏内と言ったが、やはり行くのは車である。名古屋には喫茶店のローカルチェーンがたくさんあり、大きくは都心型と郊外型に分けられる。都心型はこれまた名古屋の象徴、地下街に出店していたりする。一方で郊外型は、住宅街の近くだが、もう少し大きな幹線道路沿いにできる。ファミレスの立地に近いが、ファミレスほど町中には出来ない印象がある。大きな交差点と交差点の間のなにもない空間にできがちである。これが一番見かけるコメダの系統だ。ちなみにコメダは都心型のどちらとも対応出来ていて、マンションの1階に入る小型店とかもある。名古屋という都会と郊外が近接して混ざっている土地が、様々な物件への展開を可能にさせたのだろう。
話を戻して、このような郊外型チェーンと家賃のかからない喫茶店などが、車からだとざっと10店舗以上選択肢にある中で暮らしているのが名古屋人である。同じエリアでおそらくコンビニのほうが少ない。種類も豊富で、コメダのような新大陸風から、クラシックな西洋風、洒落っ気のある西海岸風、和風までなんでもござれである。たぶんイタリアのバル風ぐらいしかないものはないのではないか?今はすでにありそうだけど。
我が家族は土曜日の朝は喫茶店に行っていた。気分によって変えるのである。喫茶店に行って、各々好きな新聞や雑誌を読み、帰って来る。ブランチにするときもある。これまた気分によって変えるのである。スタバが進出してきたころに散々喧伝されたサードプレイスという概念を、名古屋人はご近所に持っていたのである。たぶん昭和の頃から。初めて友達と子供だけで行った飲食店も、ファミレスやカラオケでもなく喫茶店だった。
喫茶店によってはそこそこ夜もやってることがある。晩ごはんがいらない家族が多いときは喫茶店で済ませたりもしていた。住宅街での軽食提供は、実はこの高齢化社会に適していたらしく、最近はご飯を作るのがしんどい高齢者たちが喫茶店で済ませるという話を聞く。
郊外型喫茶店としての最強チェーン、コメダ
郊外型喫茶店が家賃のかからない味を提供する店に囲まれつつ、名古屋で洗練されていった*6中で、コメダが最強になったのは、シロノワールや靴型のアイスコーヒー、ミックスジュースなど、子供にも受ける全年齢対応というところと、ここはブルーオーシャンだと投資してくれたファンドのおかげだろう。
その頃から、コメダはユニークで面白いビジネスモデルの企業だと感じていました。
具体的には他のコーヒーチェーンがセルフサービスでオフィス街を中心に展開しているのに対して、コメダは(昔ながらの客席まで運ぶ)フルサービスを提供し、主に住宅地に出店していた点です
コメダ上場、投資ファンド幹部が語る支援の内幕:日経ビジネス電子版
あとたぶんちょうど進出する時期が分煙や禁煙の境目で、全席喫煙可能のお店がオープンすることもなかったであろうことは、既存の郊外型喫茶店に対してアドバンテージがあったのではないか。
ライバルとしては、ドトールは親会社の日レスが「星乃珈琲店」という郊外型珈琲店業態を開発し追従し、ファミレス界最強のすかいらーくも「むさしの森珈琲」で参戦してきた。
東京と大阪以外はだいたい郊外か田舎なので、コメダの出店余地は無限にあったようだ。名古屋人からするとあって当然のものが他の地域にはなかったらしく、カンブリア宮殿で「全国で待望される喫茶店」と書かれていた。むしろなんでなかったの?マジで。みんなどこでお茶してたの????
個店主義に客が殺到! 全国制覇を実現させたコメダ珈琲店の新戦略:読んで分かる「カンブリア宮殿」 | テレビ東京・BSテレ東の読んで見て感じるメディア テレ東プラス
ところで、都心の話だが、コメダの1000店目がジョナサンの跡地であったことは、名古屋が東京に文化勝利したみたいで面白い。散々馬鹿にしてきた*7のに、結局ちょっとダサい実家みたいな落ち着ける空間っていいんかい!みたいな。
コメダ珈琲、1000店舗目は新橋 クイズで分かる大増殖の道のり:日経クロストレンド
これまたちょうどレトロブームが来たのも追い風だったのかも。神保町にわざわざ遊びに来る大学生(現地のキャンパスへの通学者ではない)溢れてるからね。
都心のフルサービス喫茶店という第二のブルーオーシャン
そのまま、都心の話をする。都心型店舗はコメダの最新のイノベーションだろう。コメダにカウンター席あるんだ!って思いましたよほんと。名古屋人としては都心にコメダの新店舗があるのが違和感すぎて、最初近寄れなかったからね。怪しい商売している人が多すぎるルノワールとも異なる雰囲気で、スタバは席取って注文する流れダルいなと思っている人々に直撃した感じはある。
コメダは喫茶店バージョン1.5説
ところで、1968年創業のコメダは、いわゆるサードウェーブ珈琲理論ではファーストウェーブにあたる。1996年のスタバ日本進出がセカンドウェーブ、2015年のブルーボトル日本進出がサードウェーブである。
ところで、今まで書いたコメダの特徴のうち、フルサービスの喫茶であること以外は実はファーストウェーブに当てはまらない要素がある。つまり郊外型というフォームそれ自体と、全年齢向けの店構え、都心型としてセカンドウェーブの利点(非喫煙&PC作業のしやすさ)を取り込んだ点である。
なのでフォースウェーブと安直に言ってもいいのだが、あえてファーストウェーブのバージョンアップということで1.5でどうだろうか?ワンポイントファイブウェーブコーヒー、コメダ。長いな。
おわりに
故郷で味わっていた厚生が得られたのは資本主義のおかげ。素晴らしいイノベーションも、広げる意思がなければ広がらない。特に喫茶店やカフェはそうだろう。とはいえそれは未来からの視線。シンガポールの投資ファンドが出資、と聞いたときの不安な気持ちを16年ぶりに思い出し、振り返ってみたらものの見事に良い意味で裏切られたので良かったです。