スクラム含むいわゆるアジャイルの源流には、トヨタ生産方式と「The New New Product Development Game」という論文の、2つの日本が源の概念が存在している。そして源流の中でも影響力の大きい概念として存在している。しかし、ちゃんとスクラムの本読む人は少ないのか、あまりみんなそちらを読み込もうとせずに、ひたすら欧米から来るトレンドを追っている印象がある。そんなときにこの本を差し出すと、どう日本発の概念が欧米でメソッド化し、それが逆輸入されたかを事細かく説明してくれるので便利だ。
著者は経営技術という概念でそのあたりを整理するが、あまりこの整理の仕方はピンとこない。経営技術は著者いわく「経営に関する手法そのものと、その手法自体を生み出すための実践的な思考フレームワーク」としていて、経営技術のひとつに「QRコード」を事例に出しているのだが、これがイノベーションなのは分かるが思考フレームワークかというと謎。QRコードはQRコード決済というソリューションを生んだが、トヨタグループ自身がQRコードと決済を組み合わせたわけじゃないですし……。
日本は面白い経営の実践をしているが、コンセプト化が下手でアメリカにやられていて、自らの優れた経営技術をコンセプトの形でアメリカから逆輸入する羽目になっている、というのが著者の主張で、ここは同意出来る。あとニデックの会長あたりが言ってた主張な気がする。そもそもコンサルティングファームというものが、貿易摩擦時に日本企業の経営の強みを学ぶために作られたフシがある、と著者は書いていて、ここも面白い部位。
で、著者は経営技術のコンセプト化で、日本は負けているが、ここで勝つことも出来るはず!勝てるようにしていこう!と主張している。同意できない場所だ。日本がハイコンテクストな社会で、アメリカがローコンテクストな社会だからアメリカの方がコンセプト化が強いんだ、と主張しているのに、勝てると言ってるのが謎で、そんなのは得意なアメリカに任せた方が良い。どちらかというと、その下部構造の違いを活かした分業でええじゃんと思う。
そもそも欧米はロゴス優位(過去記事↓でちょっと書きましたね)で、言語と絵だったら言語が知的階級が使うべきものとされている印象がある。国際学会に出たときに、簡潔な文字だけの欧米のスライドと、豊富な画像、図で示す日本のスライドの違いがあった。日本人は英語が不得意だから絵を使う、と日本では解釈されがちだが、絵で示したほうが良い事例は大量にある。というか、大体の情報は絵で示すべき、というのがデザイン世界の結論で、サインシステムという形で世界に普及している。オライリーのHead Firstシリーズという存在そのものが、逆説的に欧米の言語優位の状況を物語っている。日本では技術書にイラストを使うのは当たり前で、その上の漫画にならないと特別なシリーズにならないからだ。
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まぁ、というわけで言葉で考えるのが好きな人たちにコンセプト化は任せたらええんちゃいますかね。あと、著者も書いている日本人の実践が優れているという話、これも文化的差異から生じているんじゃないかと思っている。つまり、コンセプトを発信したら、それを実行出来る人の多さゆえ。ここの肌感覚の違いが、ブルーカラーへの信頼の違いとなって、現場を信頼するトヨタ生産方式と信頼しないMBA的管理メソッドの違いを生んだじゃないですかね。トヨタ生産方式がなかなか欧米の製造業で浸透せずに、ソフトウェア世界に転生していったのはソフトウェアだと現場がホワイトカラーだから信頼出来て……という悲しい現実があるんじゃないかなぁ。世界はそういう文化の多様性があってそれはそれでオモロなんで、別に埋めたり追いつこうと頑張ったりせずに、得意な部分で伸ばしていけばいいとちゃうかな。まぁ、現場を信頼して自ら考えて動いてもらう日本式のほうが個人的には好き。ジョブディスクリプションにないから働かない欧米式はちょっと仕事の本質を無視していて嫌ですね。