読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

早川書房の『伊藤計劃トリビュート』にトリビュートを期待してはいけないし、SFマガジンの伊藤計劃特集はエイジズム感さえある

SF 読書部

プロジェクトイトーを楽しみにしているみなさま、ハヤカワから『伊藤計劃トリビュート』出ましたね。早速買って読んだんですが、これ正しいタイトルは『伊藤計劃以降』。手垢が付いた文字列だが、事実として伊藤計劃以降のSF短篇集になっているので、以降に興味ない人は買わない方がいい。

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)
王城夕紀 柴田勝家 仁木稔 長谷敏司 伴名練 藤井太洋 伏見完 吉上亮
早川書房
売り上げランキング: 2,394

トリビュートと銘打ってトリビュートしないの本当にどうかと思う

ハヤカワがバチガルピの『ねじまき少女』につけたゼロ年代最悪の嘘「グレッグ・イーガンテッド・チャンを超えるリアルなビジョンを提示した新時代のエコSF」に並ぶレベルの嘘だと思う。ハヤカワテン年代最悪の嘘としとこう。
で、なんでトリビュートしてないの?ってことなんだけど、SFマガジン編集長によるまえがきから引用したら一読瞭然で、

こちらから指定させていただいたテーマはただひとつ、"「テクノロジーが人間をどう変えていくか」という問いを内包したSFであること"です。

ということなんすよ。これ最初に読んで、いや、トリビュートってもっと分かりやすく伊藤計劃の書いた話に結びつけるのでは???という疑問で頭が一杯になりましたね。実際、「すでにお預かりしていた原稿」とか「今後刊行予定の長編の一部」とかが入って、さっきのテーマすら指定してなかったりしますからね。

収録作はどうなの?

直接的にトリビュートしてるのは、
藤井太洋「公正的戦闘規範」
王城夕紀「ノット・ワンダフル・ワールズ」
伴名練「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」
の3作だけです。8作中ね。このうち伴名練の作品は、屍者の帝国のアナザーストーリーどころか、自分が書いたらこうなりまっせ?っていう円城塔に喧嘩を売る壮大なビジョンと、それを短編にきれいに収める器用さ、さらにどんでん返しに屍者の帝国じゃない作品が入ってくるという完璧な二次創作で、圧倒的なクオリティを誇ってる。これが無かったらどんなに悲しかったことか。藤井氏の方は、SFガジェットは伊藤計劃だけど、いつもの藤井氏だな〜って感じでそこまで好みではないです。藤井氏は『NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション』収録の「ノー・パラドクス」とかの近くない未来のほうが合ってると思ってしまうんですよね。王城氏は伊藤計劃作品を分解して再構成してSF的にかなり陳腐なオチにしてたのが残念過ぎる。今2015年だよ……って感じしかなく本を投げそうになった。
間接的なトリビュート感は残り5作もあるし、中でも仁木稔「にんげんのくに Le Milieu Humain」は「セカイ、蛮族、ぼく」みたいだなと思ったら作者のブログでそう言って……はいなかった*1。作品としてのクオリティも、伊藤計劃を思わせるという意味でもトリビュートとして入ってた良かったと思える作品なのだが、他の4作はクオリティ自体は高くてもトリビュート感なくてここに入れなくてよいでしょ!!!ってなった。
他の作品も気になるまじめな方は冬木さんの基本読書でチェックしてください。
「懐かしむ」のではなく「その先」をしめすために──『伊藤計劃トリビュート』 - 基本読書

伊藤計劃以降ってどういうこと?

なんかSF界隈でこの言葉を使うと殴り合いが起きるらしいです。ここでは単純に伊藤計劃のデビュー後の日本SFという意味で、つまり今回のトリビュートはプロジェクトイトーをテコにして伊藤計劃以降を売っていくという話なんですよ。収録作の作家で伊藤計劃以降デビューは8人中なんと6人。これは、河出書房から出る屍者の帝国のアンソロジー『屍者たちの帝国』が逆に8人中6人が伊藤計劃以前デビューなのと比べると明らかなのだ。

米魂で告知した通り、次の『NOVA+ 書き下ろし日本SFコレクション』は、『屍者の帝国シェアードワールドアンソロジー『屍者たちの帝国』(仮)。映画封切と同じ10月2日に河出文庫から刊行予定。寄稿は山田正紀宮部みゆき、北原尚彦、津原泰水高野史緒仁木稔藤井太洋、坂永雄一。
https://twitter.com/nzm/status/638296339047038976

なら正直に伊藤計劃以降って銘打てばよいのにね。売れないからかな。

早川書房は作家を生まれた年代毎に分けすぎ

ところでSF作家の世代はデビュー年代毎に分けるのが正当らしいんだけど、それもどうなんだと思いつつ、商業作家の区分としては妥当なところと思うのだが、早川書房は『トリビュート』とほぼ同時に発売された『SFマガジン 2015年10月号 伊藤計劃特集』の方で作家とかを生まれた年代毎に対談させててうわ〜って感じでしたね。『トリビュート』の方もまえがきで作家の生まれた年を書いてた。アホだと思う。僕としては過去こんな記事を書いたけど、作者の属性とかどーでもよくない?派です。覆面作家イーガンの本、面白いでしょ?
生まれた年なんかよりも伊藤計劃の長編でどれが一番好きかで分けて対談したほうが絶対楽しいと思う。僕はハーモニーです。

まとめ

早川書房のプロジェクトイトー周辺で気になるところをまとめてみた。商売において嘘をついて買わせるのは禍根を残すだけでやめたほうがよいという単純な話と、作家を年代毎に分けるのは評論家と研究者だけにして!って話でした。プロジェクトイトー自体は屍者の帝国のアニメと虐殺器官とハーモニーの漫画は楽しみにしてる。ではでは、みなさまよいプロジェクトイトー体験を。