2016年『SFだ』と思った、SF的想像力が刺激された事件ベスト10 - 見えない道場本舗
gryphonさんの記事をまねて、今年に限定せずに一気に書いてみた。順不同だけど基本的には時系列で最近のことを先にしました。
2. 増田から火がついた『日本死ね』騒動
保育園落ちた日本死ね!!!
改めて読んだら短くて韻を踏まれた詩的な文章だった。『二条河原の落書』の現代版だけど、まさか増田から生まれるとは……っていう面白さがある。二条河原と同じく歴史に残るんだろうなぁ。「匿名ブログ→SNSで話題→国会の質問で引用される→流行語候補になる→選考委員が批判される」という流れはオーソン・スコット・カードか!っていうSF感。個人的には初めて政治と繋がりを感じられたこともあり、質問者の議員さんはそんなに好きではないが、これを引用したことに関しては良い仕事をしたと思う。
6. WELQ問題に端を発するコンテンツファーム
DeNAのウェルク(Welq)問題関連ニュースまとめ - まなめはうす
AIよりも先に低賃金で人間に書かせる未来が来てしまった……。SFはAIが生身の人間が書くよりもより評判を得るAIライターを描いてきたが、そんなものよりももっとグロテスクな現実がやってきてしまったのである。ただの現代的な内職として見ると今までと構図が変わらないんだけど、きらびやかな印象のあるネット業界からのアプローチだからなぁ。
ところで『NAVERまとめ』に本来期待される役割をまなめさんのこのニュースまとめは担っていると思います。
7. みんな雨雲レーダーを見るようになった
weather.yahoo.co.jp
人類が雨に対する新たな感覚を持ったと言える意味でSF。小説とかに出てくる特殊な種族が3時間後の天気を予測してみせるみたいなやつをみんな持つようになってしまった……。雨雲レーダーに関しては僕はアーリーアダプターで、携帯からWebにアクセス出来るようになってこれ見られるようになってから、自転車での通学スタイルが大きく変化した。僕は一応ダイアルアップからのインターネット世代なので、天気予報を電話で聞くサービスから雨雲レーダーに15年くらいで移行してしまったのがマジでヤベェって思うわけです。
8. ソイレントの流行
完全食:ソイレントの夢 « WIRED.jp
アメリカを知っている人と知らない人で反応に差が出ると思うんだけど、アメリカを知っている側としてはさもありなんなニュース。たぶんアングロサクソン以外には広がらないと思うし、手法をみるとすごくローテクでSF的ではないがニュースとしては面白かった。
10. パピーズ騒動
風雲ヒューゴ—賞2015 - SF行為記録保管所
アメリカSF界で繰り広げられているカルチャー戦争の犠牲になったヒューゴー賞 Sad & Rabid Puppies | 洋書ファンクラブ
ポリコレ風潮に対する揺り戻しのひとつだと思うけど、この事件は「イーガンの『万物理論』に出てくるジェンダー闘争だ!」って思ってアガった。これは日本でもおきえた問題だけど、SF界隈の歩んだ歴史が違う結果避けられた感がある。というのも、日本とアメリカではSFのカテゴライズのされ方が歴史的に違うからで、アメリカは未だにSFとファンタジーはまとめて同じ賞で扱うし、ラノベはジュブナイルSFとしてSFに包括されている。日本だとラノベということでデカい市場が切り離され、ファンタジーもどういうわけか切り離されてアメリカに比べて極めて狭い範囲で賞レースが行われている。*1日本でさえラノベとSFの関係って慎重に扱わないと炎上するわけで、それが同じジャンルで同じ賞を争うと考えると……ねぇ。
僕はポリコレに関しては断然ポリコレ支持派なのでパピーズ側にはならないけど、一点だけパピーズに同情する点があって、それは最近のアメリカの賞を取るSFがつまらないという点である。アメリカの賞を総なめしたアン・レッキーによる『叛逆航路』は三部作で二部まで読んだがまぁつまらなくて、人称代名詞をSheに統一して性別が分からなくなり、登場人物同士の性的な関係は示唆されるが、それが男性と女性の関係なのかは分からないみたいな仕組みを入れているのだが、そんなものがない日本語からするとだからなんだよ!!!!ってつっこみたくなる……というのはさすがに難癖だからそれは置いとくが、その仕組みがお話につながるわけではなくて、その他のSF要素もすべてガジェット的に扱われてて、日本だとSF作家以外の作家、特に純文学の人が書く作品のほうが近いはず。*2 同じく割りと最近アメリカの賞を総なめにしたバチガルピもポリコレ作家て感じで、外挿して描き出したグロテスクな未来で現実に警告するタイプの作家で、短編(第六ポンプ)だと面白いんだけど、長編(ねじまき少女)だとポリコレの説教臭さが出過ぎてよくない。だからアメリカの賞に対して面白くねーよ!ってキレるのは間違ってないんじゃないのって思うというわけだ。
批判ばっかになってアレなので、これは余談だけど最近のアメリカのSFで面白い作家はケン・
リュウ。最初に出た短編集の『紙の動物園』もよいし、その後に出た楚漢戦争がモチーフの中華ファンタジー『蒲公英王朝記
』もすごくいい。科学と技術に対する深い造詣でサイエンスをきっちり練り込んでいて、話の作り方もうまくてリーダビリティも抜群で非の打ち所がない!
12. 寿命が近いAIBO
“寿命”近づくペット型ロボットは今 NHKニュース (Web Archive上のNHKのニュース)
WELQもそうなのだけど、生物の頑健性って結構すごい。特に人間は日本人だと80年持つのが当たり前なのだが、通常80年持つ機械は家庭にはないから、大体のご家庭で一番古いものは人間だったりすると思う。そんなわけで機械の生命が人間より先に旅立つのは至極当然のことなのにものすごく不思議に思えるニュースだ。これを発売当時に想像できた人はすごい……。
おわりに
まとめてみると人間の強さを感じるなぁ。僕らは機械に期待しすぎてしまい、人間には期待しなさすぎるのかもしれない。